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一年生の時から使っている学習机にベッド、本棚に乱雑につっこんであるコミックス。
まちがいなく、自分の部屋だ。
「あれえ……。ぼく、いつの間に帰ってきたんだろ」
さっきまで、歩道橋の上にいたはずなのに。
光はベッドの上に起き上がった。
服もちゃんと着ているし、リュックも机の横に置いてある。おかしなところはなにひとつない。
「へ……へんだな。なんか、へんな夢でも見てたのかな、ぼく」
怖い夢だった。全然知らない女の人の幽霊が出てきて、その幽霊がまた、妙にリアルで――。
「夢じゃないわよ」
いきなり、天井のあたりから声が降ってきた。
「うわああっ!?」
思わず見上げた先には、あの女の幽霊が浮かんでいた。
血に染まり、ぐちゃぐちゃにつぶれた右半身もそのままだ。
その身体の向こうには、天井の様子が透けて見えている。
「うっ、うわ、うわっ、うわわわ……っ」
幽霊を指さしたまま、光はまともな言葉も出せなかった。
「なによ、失礼ね。あたしは化け物か。――て、ああ、このカッコじゃ、たしかにおバケだわね」
幽霊は、ささっと両手で自分の顔をなでた。
すると、あまりにも無惨だった右半分の傷がきれいになくなり、服にしみついた血の汚れも一瞬で消えてしまった。
サックスブルーのおしゃれなブラウスに黒のパンツルックがかっこいい。
そして両手を離すと、左半分と同じく、若くてうつくしい女性の顔がぱっとあらわれた。
黒いロングヘアにほっそりとした顔立ち。髪と同じ色の瞳と、きれいにルージュでいろどられた唇。
……きれいなおねえさん。
光は思わず、その顔に見とれてしまった。
とはいうものの、その顔はやっぱり半分透けて、うしろの天井が見えていたのだが。
「だ、誰?」
「なによ、覚えてないの? あたしがあんたをここまで連れてきてやったんじゃない」
「連れてきたって……」
幽霊はふわふわと宙に浮かんだまま、かっこう良く足を組んだ。まるで見えない椅子に座っているみたいに。
「ぶっ倒れて動かないあんたのからだを、あたしがかわりに動かして、ここまで歩かせてきたの。家までの道順は、ちゃんとからだが覚えてるものだからね」
「ぼくのからだを動かしたって……お、おねぇ――おばさんが!?」
「だーれがオバサンだっ! あたしはまだ二十五だ!」
「二十五才……。やっぱ、おばさんじゃん」
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