1 生きてる光と死んでるひかる

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「だまれ、このガキ!」  幽霊は光の真上で思いきり足を蹴りあげた。    だがその爪先は、すかっと空振りしてしまう。  彼女の足は、光の頭をすーっとすり抜けてしまったのだ。   「ち! やっぱダメか」  幽霊は悔しそうに舌打ちをした。   「や、やっぱって……、もし当たってたら、どうするつもりだったんだよ!? そんな、とんがった靴はいて、あぶないじゃんか!」 「うっさいな。あんたが避ければいいだけの話でしょ」 「よけらんないよ。いきなり蹴られたりしたら――」 「マジ? やっだ、どんくさぁ!」  幽霊は宙に浮いたまま、けらけら笑った。   「な……なんだよ! なだよ、そんなに笑うことないだろ!」  光はどなった。    だんだん腹が立ってくる。  だいたいこいつ、本当に幽霊なんだろうか?    いや、普通の人間じゃないことだけは、わかる。  浮いてるし、半分透けてるし、オカルトやホラーの関係者なことだけはたしかだろう。    でも。 「あ、あんた、誰? なんでぼくに声をかけたの」 「言ったじゃない。あんた、自殺するつもりなんでしょ? そのからだ、捨てるつもりだったら、あたしがもらおうと思ったの。ごらんのとおり、あたしはもう死んじゃって、自分のからだがないもんだからさ」  ――やっぱり、マジで幽霊なんだ。    光のからだをのっとって、生き返ろうというつもりなんだろうか。    光は、頭のうしろあたりがすうっと冷たくなるのを感じた。  けれど、今度はどうにか気絶せずにがまんする。    今、見えているのが、最初に見た血まみれのぐっちゃぐちゃな姿ではなくて、きれいでかっこいい女の人だから、がまんできたのかもしれない。    本当に、きれいな人だ。  テレビなどで見る女優か、雑誌のモデルみたいだ。    こんなに若くてきれいな人が、もう死んでいるなんて。   「交通事故だったのよ」  まるで光の頭の中を読みとったみたいに、幽霊は言った。   「先週の日曜日、自分で車を運転して、さっきの道を通ったの。そしたら、わき見運転の車にぶつけられちゃって。ちょうどあの歩道橋の真下あたりでね」 「ふうん、そっか……」  車の事故なら、あの血だらけの姿も当然だ。    でも、やっぱり。   「ぼくには、関係ないじゃんか。化けて出るなら……その、車ぶつけた相手んとこに出てよ」 「無理よ。そいつも事故で死んじゃったもん」
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