2人が本棚に入れています
本棚に追加
「だまれ、このガキ!」
幽霊は光の真上で思いきり足を蹴りあげた。
だがその爪先は、すかっと空振りしてしまう。
彼女の足は、光の頭をすーっとすり抜けてしまったのだ。
「ち! やっぱダメか」
幽霊は悔しそうに舌打ちをした。
「や、やっぱって……、もし当たってたら、どうするつもりだったんだよ!? そんな、とんがった靴はいて、あぶないじゃんか!」
「うっさいな。あんたが避ければいいだけの話でしょ」
「よけらんないよ。いきなり蹴られたりしたら――」
「マジ? やっだ、どんくさぁ!」
幽霊は宙に浮いたまま、けらけら笑った。
「な……なんだよ! なだよ、そんなに笑うことないだろ!」
光はどなった。
だんだん腹が立ってくる。
だいたいこいつ、本当に幽霊なんだろうか?
いや、普通の人間じゃないことだけは、わかる。
浮いてるし、半分透けてるし、オカルトやホラーの関係者なことだけはたしかだろう。
でも。
「あ、あんた、誰? なんでぼくに声をかけたの」
「言ったじゃない。あんた、自殺するつもりなんでしょ? そのからだ、捨てるつもりだったら、あたしがもらおうと思ったの。ごらんのとおり、あたしはもう死んじゃって、自分のからだがないもんだからさ」
――やっぱり、マジで幽霊なんだ。
光のからだをのっとって、生き返ろうというつもりなんだろうか。
光は、頭のうしろあたりがすうっと冷たくなるのを感じた。
けれど、今度はどうにか気絶せずにがまんする。
今、見えているのが、最初に見た血まみれのぐっちゃぐちゃな姿ではなくて、きれいでかっこいい女の人だから、がまんできたのかもしれない。
本当に、きれいな人だ。
テレビなどで見る女優か、雑誌のモデルみたいだ。
こんなに若くてきれいな人が、もう死んでいるなんて。
「交通事故だったのよ」
まるで光の頭の中を読みとったみたいに、幽霊は言った。
「先週の日曜日、自分で車を運転して、さっきの道を通ったの。そしたら、わき見運転の車にぶつけられちゃって。ちょうどあの歩道橋の真下あたりでね」
「ふうん、そっか……」
車の事故なら、あの血だらけの姿も当然だ。
でも、やっぱり。
「ぼくには、関係ないじゃんか。化けて出るなら……その、車ぶつけた相手んとこに出てよ」
「無理よ。そいつも事故で死んじゃったもん」
最初のコメントを投稿しよう!