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表情だけで、こんなにも違って見えるなんて。
「ね、かんたんでしょ」
光が、いや、光のからだに入ったひかるが、言った。
その声もたしかに光のものだったが、しゃべり方は全然違う。
ひかるはとてもうれしそうだった。
両手をなでたり、大きくのびをしたり、座ったまま足をばたばたさせてみたり、からだの動きを確かめているようだ。
「そういやあたし、昔から一度、男の子になってみたかったんだあ。そうだ、せっかくだから、どっか遊びに行こうかな! あんた、いつもどこで、なにして遊んでんの?」
ひかるはベッドから立ち上がった。
「あ、でも、このカッコ、だっさいなあ! もうちょっとマシな服、ないの?」
そして、壁につくりつけになっている洋服たんすを開け、光の服をかたっぱしから引っぱり出す。
「ち、ちょっと……! ひとのからだで、勝手なことしないでよ!」
あわてる光を、ひかるはにやっと勝ち誇ったような笑いを浮かべて見上げた。
「あんたは幽霊なんだから、これはもう、あたしのからだよ。――あ、と、あたし、じゃないか。オレ、かな? オレ」
ひかるはでかけることはやめたようだが、今度は本棚に並んだマンガをいろいろ物色し始めた。散らかした服も片づけないままだ。
「あんたは望んだとおり幽霊になったんだから、もうここにとどまってる必要もないし。好きなとこに行っちゃっていいのよ」
「行くって、どこへ……」
「天国とか地獄とか、いろいろあるじゃん。ま、あたしもまだ行ったことないから、良くわかんないけどさ」
「い、いやだよ! 地獄なんて、行きたくない!」
「なによ。あんた、死にたかったんでしょ? 願いがかなったんだから、文句ないでしょ!」
「いやだいやだいやだ! ぼくのからだ、返せよ!!」
光は大声でわめいた。
からだがあったら、手足をふりまわしてめちゃくちゃにあばれるところだ。
「人のからだ、勝手に使うな! 返せよ!!」
空中に浮かんだ光は、そこからひかるに思いきりぶつかっていった。
――あ、ぼく、今は幽霊だから、蹴ったり撲ったり、できないんだっけ!?
でも、勢いがついて、もう止まらない。
そのまま光の姿は、ひかるに重なった。
その瞬間、また、からだ中がしぼられるみたいな、あの感じが光を襲った。
「う、うわっ! うわあっ!?」
おなかの奥から一気に吐き気がこみあげてくる。
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