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それを、どうにか押し殺そうとした時。
「あ……!」
光のからだは、もとどおりになっていた。
両手をさする。それからほほ、あご、髪の毛もひっぱってみる。ちょっと痛い。
ちゃんとからだがある。
「良かったあ……」
光は大きくため息をついた。
「あーあ、やっぱりだめか」
ふたたび半透明の幽霊になったひかるも、がっかりしたようにため息をついた。
「もともとのからだの持ち主であるあんたが、そうやってからだから離れたくないってがんばってると、あたしもからだの中に入れないのよね。さっきみたいに、あんたが気絶してるとか寝てるとかしてないと、すぐに追い出されちゃうの」
ひかるはまた、空中にこしかけるように、かっこよく足を組んだ。
「実は、あんたのほかにも二、三人、ためしてみたんだけど、全然だめだったの。からだの中に入るどころか、家の中までくっついてくこともできなくて。その人の後ろから玄関入ろうとしたら、ドアを通り抜けられなかったの。閉じたドアにどかん!て、顔からぶつかっちゃってさ、まるでテレビのコントみたいだった」
あはは、と、ひかるは気楽そうに笑った。
「じゃあ、なんでぼくだけ……」
「やっぱ、アレじゃない? あんたが死にたがってたから」
にやりとしたその表情は、やっぱりかっこいいや、と光は思った。
「ねえ。あんた、なんで死にたいの?」
光はうつむいた。
黙り込み、答えない。ひかるを見ようともしない。
「ま、言いたくなきゃ、言わなくてもいいけどね」
ひかるも、たいして興味もなさそうに言った。
さーて、どうしよっかなあなんて一人言をつぶやきながら、ひかるはそこにふわふわ浮いたままだった。
「な……、なに、してんの?」
「ああ、気にしなくていいよ。無視してくれてかまわないから」
「無視できるわけないだろ! あんた、ぼくにとりつくのはあきらめたんだろ!? だったら、さっさと別の人を探しに行けよ。なんで、いつまでもぼくの部屋にいるのさ!?」
「あんたがもう一度死にたくなるのを、待ってんの」
ひかるは、平然と言った。
「え……!?」
「だってあんた、理想的なんだもの。友達も少ないみたいだし、いっしょに暮らしてる家族はお母さん一人きりでしょ?」
「ど、どうしてそんなこと、知ってんだよ!?」
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