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泣きだした彼女と肩で息をする僕に、
通りかかる人々が、何事かという目を向けてくる。
「ナッちゃん、こっち」
僕は、彼女の手を引き表通りから脇道へと入り、
街路樹の陰に彼女を連れて行った。
「ごめんなさい、驚かして。
でも、これから入院したっていう社長……、
彼女のお父さんのお見舞いに行くところだったんです」
そして、俯き加減で泣いている彼女の肩に手をかけて
彼女を覗き込んで続ける。
「それと、彼女と一緒だったのは、病院に案内するって言われたから。
それ以外の何物でもないです。連絡先だって教えてなかったし。
でも、僕の元先輩から聞いたって……」
全てが真実で、一言一句、嘘はない。
それでも僕は、祈るような気持ちで彼女が信じてくれるよう必死だった。
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