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序章(早雪)
昨夜から今朝にかけて降った雪がまだ路の所々に残っていた。
解けた雪と泥が混ざり、薄い茶色になっている場所も多い。
その斑模様の路を男が一人闊歩していく。歳の頃なら二十七、八、旅行者用の革袋を肩に掛け、腰には長剣を帯びている。短い銀髪を逆立てた、目つきの良くない男であった。
「お、ここか」
銀髪の男は一件の花屋の前で足を止めた。
しばらく店の様子を伺った後、店内に足を踏み入れる。
冬に咲く花は少ないが、それでもプリムラ、菊、水仙などが揃えてあった。
「いらっしゃいませ、今日はどんな花をお求めで?」
小柄な中年男が笑顔で出迎える。
「馬鹿、俺が花なんか買う男に見えるかよ」
花屋に来てこんなことを言われても、言われた方は閉口するしかない。
「あんたがオリバーかい?」
「はい、私が花屋のオリバーですが?」
「ちょいとそこで聞いたんだがよ、あんたのかみさんが三日前に山で十字傷の男を見たっていうのは本当か?」
「ええ、本当ですよ。間食用に持って行った乾燥肉を銀貨5枚で買ってくれたと言っていました。最初は山賊だと思って怖かったが、何も悪さはされなかったと」
「そうかい……」
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