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 契約とは、魔獣を従えるために取り交わす約束事だ。賢者候補生は定められた『魔獣』の心象を探り、『魔獣』の真の姿を見つけなくてはならない。真の姿とは『魔獣』が熱望する望みのことで、そしてその望みを体現するため、互いに協力し合うことを約束するのだ。 『桃猫ロセウム』の、真の姿とはなんだろう? 目の前の大猫は薄桃色とクリーム色の縞模様を身に纏い、金の隻眼で値踏みするようにあたしとシロンを見つめていた。鋭い牙が覗き見える大きな口は耳まで裂け、長い髭を揺らしながらニヤついてるみたいだ。あたしは静かに目を閉じると、桃猫の内面をサーチした。その心象を、探る、探る、探る……。  攻撃や防御、変換や錬成などの物理魔法が得意なシロンと違い、あたしの得意は精神的ダメージを与えたり、回復したり、思考を読み取ったり操作したりするメンタルな魔法だ。だけどさすがに『魔獣』のガードは堅い。あたしは暗闇の中に針の先ほどの光を求め、桃猫の内面に神経を張り巡らせた。  ああ何か聞こえてきた、あれは戦う兵士の鬨(とき)の声? 黒く渦巻く煙、赤々と燃える火、焼け落ちる城壁……戦火の中を疾走する金色の獣。左目に刀傷、背には白銀の鎧を身に着けたプラチナブロンドの青年。 「桃猫、あんた『時の賢者シグルス』様に仕えていたのね!」 「ニャニャニャニャニャああっ!」  驚いた桃猫は高く跳び上がると、宙で一回転して華麗に着地した。 「おまえ、嫌な魔女だニャあ……今までの賢者候補は、誰も探り出すことが出来なかったんだが」  人間界で大きな戦争が起こると、場合によっては賢者様が直接介入する。多くの命が犠牲になる大規模な戦争は、賢者様の管理が及ばない他の世界からの介入があり、直に出向かないと収められないときがあるらしい。  『時の賢者シグルス』様も、一〇九六年頃から十三世紀後半まで人間界の戦争に時々出かけていたという。確かに競技場のレリーフに猫科の獣も一緒に彫られていたけど、まさかこの桃猫が従者だったなんて。そして桃猫が熱望しているのは、本来の金色の姿に戻ることだった。 「だけどどうして、そんな姿になっちゃったの?」  桃猫は決まり悪そうに前足で顔を洗い、毛繕いするため後ろに首を回した。
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