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ミルク色の霧が、もの凄い早さで後ろに流れていく。耳元で風がゴウゴウと唸り、息も出来ない。それにしても、かなりの早さで長いこと飛んでいるのに相変わらず何も見えないなぁ。
「ねえ桃猫、あとどのくらい時間が掛かるの? あんた、本当に解って飛んでるんでしょうね?」
首を回した桃猫は、あたしを見て金色の目を細める。風に煽られた髭は、顔に貼り付いてブルブルと震えていた。
「もうじき、第三階層を抜ける頃だニャぁ。ステージのある最下層第五階から第三階までは雲の中だから辺りは見えニャいが、二階層からは雲の上だ、素敵な景色が拝めるぜ」
ニヤニヤと耳まで裂けた口を歪め、桃猫は嫌らしい笑い方をした。
「気になるわね、意味深なその笑い方は何? ちょっと、桃猫、教えなさいよっ!」
首を拳で叩いたけど、桃猫は知らん顔で二度と振り向かない。すると、桃猫に乗ってから一言も話さなかったシロンがポツリと呟いた。
「相変わらず呑気だな」
「呑気……って、どういう意味よ」
身体ごと向き直って座り直したあたしは、シロンに額を突きつける。一瞬、タジタジとなったシロンは大きく息をつき、気を取り直してからあたしを睨み返した。
「あのなぁ、雲が晴れると言うことは、他のチームから姿が丸見えになるって事なんだぜ? つまり、頂上に立つための戦いが始まるんだ」
そうでした。あたしってば桃猫と契約できたことで、すっかり勝った気になっていたみたい。本当は、これからが正念場なのよね。
三十組のチームのうち、何組とご対面できるかしら。『魔獣』を手に入れられないままリタイアするチームもあるだろう。あたし達は思ったより早く『桃猫ロセウム』と契約できたから、トップグループを期待できる。
「そう言えば桃猫、さっき聞きそびれたけどアンタが桃色になった理由教えてよ」
聞こえないふりを決め込んで、桃猫は返事をしない。だけどその耳がピクリと反応したのをあたしは見逃さなかった。顔に貼り付いて後ろに流れていた髭を、思い切り引っ張る。「話してくれないと、真の姿を取り戻す方法が解らないじゃない。契約なんだから、教えて貰わないと困るわ」
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