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「……ニャぁ、別に俺はこのままでも」 「嘘おっしゃい! いいわ、だったらサーチして自分で探すから。契約したからにはあたし達に義務があるんだもの」  あたしは目を閉じて、もう一度桃猫の内面に進入を試みる。 「まてまてまてっ! はニャすから、やめてくれ!」  あら、どうやらサーチされてはまずいことがあるのね。どこまで話してくれるか解らないけど、取り敢えず話を聞くことにした。 「確かに俺は『時の賢者シグルス』様と契約し、神の名を騙った殺戮を止めるために働いていた。そして役目を果たし、契約通り望みを叶えてもらったのさ」 「ふぅん、どんな望みだったの?」 「人間の姿にニャることだ」 「人間!」  桃猫は首を回し、にたりと笑った。 「金髪碧眼の、美青年にしてもらったのさ。まあ、そこまでは良かった」  しわを寄せた鼻を、桃猫は忌々しそうにフンと鳴らす。 「実は人間の女と恋仲にニャってね……」 「あら素敵、そうかぁ……種族を超えた恋に『時の賢者シグルス』様がお怒りになったのね」  種族を超えた悲恋、あたしはうっとりため息をつく。 「いや、それが違うんだニャ」 「え?」 「一人の女と愛を貫くニャら『時の賢者シグルス』様も仕方ニャいと仰ったんだが、如何せん俺はモテてねぇ……十人・二十人・三十人と、取っ替え引っ替え女をコマ……ぐぎゃっ!」  手綱よろしく、あたしはエンブレムの付いた革ベルトを締め上げた。まったく、そういうのを女の敵って言うのよ!  だけど、桃猫に掛けられた呪いを解いて真の姿を取り戻すには、やはりシロンが『時の賢者』にならなきゃ駄目って事よねぇ。まあいいか、契約上では前向きに努力すればいいわけだし。 「雲から出るぞ、用心しろ」  注意を促すシロンの声。あたしは気を引き締めて、桃猫にしがみついた。  ミルク色の雲が、だんだん薄くなっていく。レースのカーテンを一枚一枚引いていくように、色を増す綺麗な緑。その緑のフレームに切り取られた紺碧の空! 「すっごーいっ!」  眼前に広がる壮大な眺めに、あたしは思わず感嘆の声をあげた。
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