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 インディブルーの天蓋の下、波濤のように幾層もの雲が重なりあっている。その彼方はどこまで続いているのか見当も付かないほど遙かで、長く見つめていると気が遠くなりそうになった。  その中に、雄壮なる姿でそそり立つ巨木『イグドラシル(世界樹)』。幹の太さは大きな街が一つ入りそうなくらいあって、縦横無尽に伸びる枝は一本でミシシッピー河をせき止めてしまえるくらいだ。小枝の先に茂る緑さえ、迷い込んだら出られなくなる深い森のよう。  森羅万象が足下にひれ伏す、『イグドラシル(世界樹)』。雲の下に広がる裾野は、どれだけの大きさがあるのだろう。地上で世界一の巨峰さえ、根本の小石ほどしかないだろうな。  冷たく澄んだ大気の中、天上から注ぐ太陽の光はそれほど眩しいとは感じなかった。全身が清々しい空気に洗われて、細胞一つ一つにその光がしみこんでくる。魂が永遠にとらわれる陶酔感、良い気持ち……。 「落ちるぞ、馬鹿!」  ハッと我に返ると、シロンがあたしの腕を掴んでいた。神々しい眺めに意識を奪われて、桃猫の背から落ちそうになっていたらしい。 「ありがと……でも馬鹿は酷いと思うんだけど」 「『魔獣』に乗っている限り安全だけど、落ちたら命はないんだぜ? 俺たちは飛ぶことが出来ないからな」  確かにそうだ、シロンの言葉で現実に引き戻されたあたしは鳥肌が立った。この競技で去年、死者が出たと聞いている。 「今のところ俺たちはトップグループだ、三階層を抜けて来た敵は三チーム……いや、いま二チームに減った」  シロンはサーチで他のチームの存在を感じ取ったようだけど、その言葉が終わらないうちに頭上から、かすかな悲鳴が聞こえてきた。見上げると、候補生の誰かがすごい勢いで落下してくる。 「桃猫っ! あの子を助けてっ!」 「あいよっ!」  上を目指していた桃猫はくるりと方向転換すると、落ちてくる候補生の下に駆けつけた。物理魔法で落下速度を落とし、シロンが受け止めた候補生は『ひろいっ子』チームの男の子、ロウだった。短く刈り上げたアンバーブラウンの髪と小柄な体格で少し幼く見えるけど、ロウは『ひろいっ子』の中でシロンと成績を張り合うくらい優秀な候補生だ。 「ロウ、ロウ、大丈夫?」  見ると肩口は刀傷でパックリと裂け、ひどい出血。シロンがロウのスカーフを外し、傷を縛って止血した。
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