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「僕は……大丈夫、それよりイータが……」
「えっ、イータは? イータはどこにいるのっ!」
おっとりしてて、のんびり屋さんのイータ。同じ『ひろいっ子』同士、仲良しのイータ。彼女が危険なのだろうか? あたしは思わずシロンを見た。シロンは険しい顔で頷くと、桃猫に叫ぶ。
「ロセウム! 二時の方向、全力だ!」
「了解っ!」
力強い返事を返し桃猫は、これまでない早さで斜め上空に跳躍した。一足、二足、宙を蹴り、二百メートルほど上方の堂々とした枝の上に着地する。すると、そこには……。
「ライハルト!」
どう猛な目つきの『魔獣・黒色狼』を従えたライハルトがサーベルを振り上げ、『魔獣・灰色イタチ』に隠れるようにして踞るイータに斬りつけようとしているではないか。
「あんた、なにしてんのよ! イータを殺す気なのっ!」
あたし達に気がついたライハルトは動きを止めると、嘲るような笑みを浮かべた。
「いいところに来たねぇ、君たち。まとめて片付ける方が、僕も手間が省けるよ」
「な……に? それ、どういうこと?」
『シグルスの銀杯』で見せたライハルトの残忍さが脳裏によみがえり、あたしの背筋に冷たいものが駆け上る。あのときシロンを傷つけたライハルトは、既に殺すつもりでいたのだろうか? そんな、馬鹿な。そんな、どうして?
「目障りなんだよ、君たちは。下賤な生まれのくせに、僕たちに張り合おうなんてするから立場を解らせてあげないとね。『シグルスの銀杯』もクリスマススターも、正統な血筋を引くものだけが手にすることの出来る栄誉だ」
ライハルトは余裕を見せるように栗色の巻き毛を絡ませた左手を掻き上げながら、切っ先をあたし達に向け構えをとった。賢者一族の証である黒いローブが舞い上がり、その姿は魔族のような禍々しさだ。
どうかしている、何とかしてライハルトを止められないかしら……。
黒色狼の後方で、ライハルトのパートナーであるクラリッサが心配そうにこちらを見ていた。だけど、あたしの視線に気付いて顔を背ける。ライハルトを止める気はないようだった。
「大丈夫だ、心配ない」
その時あたしの肩に、シロンの温かい手が置かれた。なぜだろう、とたんに不安や恐怖が薄れて、信頼と安心感につつまれる。シロンがライハルトを止めてくれると、あたしは素直に信じることが出来た。
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