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「あら、そうかしら? ライハルト様に余裕があるとは思えないけど」  あたしは赤毛のツインテールを、わざと大きく振り回して後ろを向いた。跳ね上がった髪が鼻先をかすり、クラリッサは顔をしかめる。 「勘違いなさらないでね、サイ。どう考えたって『ひろいっ子』である、あなた方が勝つことなどあり得ないのです。でも不遇な境遇同士でいたわり合う姿は、美しいですわ」  エメラルド色の瞳に偽りの慈愛を讃え、クラリッサは品よく微笑んだ。ライハルトの腰巾着のくせに、ホンッと嫌な女!  怒りと嫌悪を思いっきり灰色の瞳に込めて睨んだあたしを無視するかのように、肩に掛かったハニーブラウンの髪を右手でかき上げクラリッサは踵を返す。これ以上、会話するのも煩わしいと言いたげに。  クラリッサの言うとおり、あたしもシロンも賢者様が人間界から連れてきたよそ者だ。人間界で特出した力を持つがために居場所を失い、『時の賢者』様に助けられこの世界に来た子供達は『ひろいっ子』と呼ばれている。あたしは二十一世紀のアメリカから、シロンは十七世紀のフランスから連れてこられた。この世界では過去の名前を捨てるから、あたしはサイ(ψ)、シロンはイプシロン(ε)。ギリシャ文字のアルファベットが呼び名になる。  十三賢者一族の血を引く候補生にくらべて肩身の狭い思いをしてる『ひろいっ子』学生も多いけど、賢者シグルス様以外の血筋なんて祖先はあたし達と同じなのよね。  世界がまだ混沌だった時、大いなる意志に派遣された『名も無き時の賢者』様が最初の秩序をおつくりになったという。そして世界が複雑になるにつれ弟子を増やし、現在は『十三賢者』を頭に大勢の弟子達が『理(ことわり)』を管理しているのだ。 『名も無き時の賢者』の血を引く賢者シグルス様を筆頭に、実のところ現在の賢者様は十二人しかいない。十三人目は世界が再び『混沌』に覆われたときに現れるそうだけど、どうやら伝説でしかないみたいね。
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