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 案じる必要もなく、勝負は見えている。ライハルトなんてオーギュ様の足元にも及ばないんだから、瞬きをする間に撃砕されてしまうでしょうね。  女生徒達がもらす、羨望の溜め息が競技場を満たした。白い詰め襟の制服に、瞳と同じエメラルド色のスカーフをあしらったオーギュ様がサーベルを構えたのだ。その何者をも寄せ付けない美しさに気圧され、既にライハルトは色を失っている。  試合開始の合図とともに、オーギュ様のサーベルが目に留まらない早さで回転した。その一瞬に、ライハルトのサーベルは弾き飛ばされ堅いチーク材の床に突き刺さる。切っ先をめり込ませて小刻みに振動するサーベルは、勢いの凄まじさを表していた。競技場は水を打ったように静まり、次に大きくどよめいた。まさに神業、華麗すぎて物足りないくらい。もっとライハルトをやっつけて欲しかったんだけどなぁ、まあこれはこれでプライドがズタズタに傷ついたとは思うけど。  一人ほくそ笑むと、あたしはシロンを探しに競技場の外へと急いだ。  競技場から出て、中庭の周囲を巡る回廊を歩きながらシロンの姿を探す。すると、白い石畳が引き詰められた中庭の中央に立ち、シロンは天を睨んでいた。声を掛けにくい雰囲気に戸惑っていると、あたしの気配に気がついたシロンが顔を向ける。 「決勝戦は?」 「えっ? あ……試合開始数秒で決まっちゃった」 「オーギュか」 「うん」  試合結果だけ聞いたシロンは、踵を返すとあたしに背を向けて歩き出した。
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