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「ちょ、ちょっとまってっ!」
慌てて後を追うあたしを無視して、シロンは歩調をゆるめない。敗因について根掘り葉掘り聞かれるのを、たぶん警戒してるんだ。
「試合中に気が散るなんて、シロンらしくないよっ! 決勝戦でオーギュ様と戦うのが怖くなったから、わざと負けたんじゃないでしょうね?」
「なんだとっ! あれは……っ」
あたしはシロンの目をまっすぐに見た。挑発に乗ってしまったことを悔やんだのだろう、鳶色の澄んだ瞳に浮かんだ怒りはすぐに消え、シロンは唇を噛むと顔を背ける。
「勝てなかったことに変わりはない、言い訳は見苦しいだけだ」
なによ、格好つけちゃって。その様子からすると、避けきれないアクシデントがあったに違いない。ライハルトが、反則技を使った可能性もある。なお食い下がろうとシロンの前に立ち塞がったあたしは、コバルト色のスカーフについた黒いシミを見つけた。
「血が、ついてる」
ライハルトが喉に突きつけた、サーベルの切っ先で傷ついたんだ。刃のない武器を使用しているはずなのに、ライハルトのヤツ、まさかシロンを?
「ねえ、先生に言わなくちゃ、ライハルトの武器はルール違反だって……」
「余計なことを言うな」
シロンは脅すような低い声で言うと、怖い目で睨んだ。その迫力に怯えて、あたしは思わず縮こまる。すると狼狽えたようにシロンは目をそらし、スカーフで首を押さえて足早にその場から立ち去った。
「ひねくれ者、強情っ張り、心配してあげてるのに、ホント馬鹿みたい……!」
背中に向かって挑発したけど、シロンはもう振り向くことはなかった。
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