☆1☆

7/7

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
「ちょ、ちょっとまってっ!」  慌てて後を追うあたしを無視して、シロンは歩調をゆるめない。敗因について根掘り葉掘り聞かれるのを、たぶん警戒してるんだ。 「試合中に気が散るなんて、シロンらしくないよっ! 決勝戦でオーギュ様と戦うのが怖くなったから、わざと負けたんじゃないでしょうね?」 「なんだとっ! あれは……っ」  あたしはシロンの目をまっすぐに見た。挑発に乗ってしまったことを悔やんだのだろう、鳶色の澄んだ瞳に浮かんだ怒りはすぐに消え、シロンは唇を噛むと顔を背ける。 「勝てなかったことに変わりはない、言い訳は見苦しいだけだ」  なによ、格好つけちゃって。その様子からすると、避けきれないアクシデントがあったに違いない。ライハルトが、反則技を使った可能性もある。なお食い下がろうとシロンの前に立ち塞がったあたしは、コバルト色のスカーフについた黒いシミを見つけた。 「血が、ついてる」  ライハルトが喉に突きつけた、サーベルの切っ先で傷ついたんだ。刃のない武器を使用しているはずなのに、ライハルトのヤツ、まさかシロンを? 「ねえ、先生に言わなくちゃ、ライハルトの武器はルール違反だって……」 「余計なことを言うな」  シロンは脅すような低い声で言うと、怖い目で睨んだ。その迫力に怯えて、あたしは思わず縮こまる。すると狼狽えたようにシロンは目をそらし、スカーフで首を押さえて足早にその場から立ち去った。 「ひねくれ者、強情っ張り、心配してあげてるのに、ホント馬鹿みたい……!」  背中に向かって挑発したけど、シロンはもう振り向くことはなかった。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加