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田中と二人だけで広い校内にいる麻衣を探すには限界があった。
美恵子と田中と二手に分かれようかとも話したが、田中は麻衣の顔がわからない。
美恵子は職員室に行って事情を話すと駆け出したが、田中がそれを止めた。
「じゃあ、どうしろって言うの!こうしてる間にも麻衣が、」
「落ち着けって言ってるの!あんた母親なんだ。麻衣ちゃんの居場所はあんたならわかるはず。よく耳を澄ませ!聞こえない?麻衣ちゃんの声、方向だけでも感じないかい?」
「声?何言ってるの?」
突拍子のない事を言われ、麻衣の事で血が上っていた頭に一瞬の隙間ができた。
その時。
『痛いよ、やめてよ…』
「麻衣?」
『私の髪…切らないで…』
間違いない!麻衣の声だ!麻衣の声が遠くから聞こえる。
どこ?どこ?
美恵子は鬼の形相であたりを見渡すが、近くに麻衣の姿は見えない。
どこなの麻衣!
誰かと一緒なの?髪を切らないでって何?誰に何をされてるの?
…髪を切らないでって事は、誰と一緒か知らないけど、そいつは刃物を持っているって事?
冗談じゃない!私の娘に何する気!?
なぜ麻衣の声が聞こえるのか、なぜ、田中は声が聞こえる事を知っていたのか、気になる事はたくさんあったが、今は麻衣を見つけるのが先決だ。
『ママ、助けて』
麻衣!今行くからね!美恵子は完全に方角を把握して走り出した。後は声がより大きく聞こえる方に行くだけだ。麻衣が呼んでる。麻衣、無事でいて。
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