第三章 娘の声が聞こえる…

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田中と二人だけで広い校内にいる麻衣を探すには限界があった。 美恵子と田中と二手に分かれようかとも話したが、田中は麻衣の顔がわからない。 美恵子は職員室に行って事情を話すと駆け出したが、田中がそれを止めた。 「じゃあ、どうしろって言うの!こうしてる間にも麻衣が、」 「落ち着けって言ってるの!あんた母親なんだ。麻衣ちゃんの居場所はあんたならわかるはず。よく耳を澄ませ!聞こえない?麻衣ちゃんの声、方向だけでも感じないかい?」 「声?何言ってるの?」 突拍子のない事を言われ、麻衣の事で血が上っていた頭に一瞬の隙間ができた。 その時。 『痛いよ、やめてよ…』 「麻衣?」 『私の髪…切らないで…』 間違いない!麻衣の声だ!麻衣の声が遠くから聞こえる。 どこ?どこ? 美恵子は鬼の形相であたりを見渡すが、近くに麻衣の姿は見えない。 どこなの麻衣! 誰かと一緒なの?髪を切らないでって何?誰に何をされてるの? …髪を切らないでって事は、誰と一緒か知らないけど、そいつは刃物を持っているって事? 冗談じゃない!私の娘に何する気!? なぜ麻衣の声が聞こえるのか、なぜ、田中は声が聞こえる事を知っていたのか、気になる事はたくさんあったが、今は麻衣を見つけるのが先決だ。 『ママ、助けて』 麻衣!今行くからね!美恵子は完全に方角を把握して走り出した。後は声がより大きく聞こえる方に行くだけだ。麻衣が呼んでる。麻衣、無事でいて。
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