第五章 真実は…

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  混乱しないようにと誰からも事情は説明されず、しばらく美恵子は本当に高い所から落ちて入院していたものだと信じていた。 その割には自分の手足が棒切れのように細くなり、いつまでたってもベッドから起き上がれない事に多少の疑問を持ったが、色々考えるだけの体力がなかったのが幸いし、深く考える事なく食事をとりリハビリに専念する事ができた。 3か月が過ぎ、杖をつけば自力で歩けるようになった頃、田中が病室に現れ、すべてを教えてくれた。 美恵子が一年前に交通事故にあった事。 その時の打ち所が悪く意識が戻らなくなっていた事。 一生目が覚めないかもしれないと家族が覚悟を決めかけてた事を。 田中はこの一年、意識の戻らぬ母親に毎日かかさず会いに来る麻衣を見続けていた。 日に日にやつれていく麻衣。 田中の顔を見るたびに 『母をよろしくお願いします』 と頭を下げ、涙を堪えていた麻衣。 田中は麻衣の気持ちを思うと、なんとしてでも美恵子の意識を取り戻してやりたいと思った。 だが正直なところ出来る治療はすべてやった。 これ以上他に治療法は、もう無い。 ただ一つ非正規の治療法を除いては。 田中は悩んだ末、まだ実験段階の医療装置を使用する許可を渋る上席からもぎ取った。 その医療装置は意識の戻らない患者と医師の脳を電気を用いてリンクさせ、医師の意識を患者の意識に入り込ませて直接語りかける事ができる。 実験では成功回数が失敗回数を少し上回っているから、うまくすれば美恵子の奥底に閉じ込められた意識を目覚めさせる事ができるかもしれない。 ただ、あくまで実験途中の装置だ。 予想のつかない事態が起こる可能性が高い。 だが、もうこれしかないのだ。
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