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後悔と絶望を核に、諦めと惰性で生きた人生だった。
あの時もっと、別の選択をしていれば今は違ったのだろうか。
その答えが解らぬまま、何十年も自問自答を繰り返してきた。
答えなど出ないのに、それでも幾度も幾度も考えずにはいられなかった。
命の灯がのこり僅かとなった今。
佐知子、どうしようもなく君に会いたくなった。
もう老人と呼ばれる年の男がこんな気持ちおかしいかい?
笑われてもかまわない、それでも君に会いたいんだ。
だけど私には君を呼び出す勇気が無い。
君はきっと私を恨んでるから。
††††
私の家は代々祓い屋を生業として、跡取りの私には幼い頃から自由が無かった。
友達と遊んだ記憶はほとんど無い。
学校が終わればすぐに帰り、日付が変わる寸前まで修行をしなければならなかったからだ。
学校では常に孤独で、クラスの皆が幾つかのグループに分かれ楽しそうにお喋りしてるのを、私はずっと興味がないふりをしてやり過ごしてきた。
本当は泣きたいくらい羨ましかったのに。
私は学業もスポーツも常に上位だったから、中学三年の春、先生に高校進学はしない事を告げると、すごく驚いて進学をするよう強く勧められた。
「お前の学力ならどこだって行けるんだ。ちゃんと家族の人に相談してから決めなさい。わかったね」
ねえ、先生。
その『家族の人』が進学を許さないのです。
『家族の人』が友達を作る事も、将来に夢を持つことも、自由に恋愛し結婚する事も許さないのです。
私は一族の誰よりも霊力が強いからもっと修行して力を高め、将来は家を継ぎ立派な霊媒師にならなくてはいけないのだそうです。
それは私が生まれた時から決まってる事で、逆らう事は決して許されないのです。
もし、私が先生にそう言ったら高校に行かせてもらえるよう『家族の人』を説得してくれるだろうか?
そしてその説得に『家族の人』は納得してくれるだろうか?
私は数瞬、叶うことの無い高校生活を頭に浮かべた。
真新しい制服、笑い合える友人、部活動にアルバイト。
夕方の放課後には友人達と居残って、勉強や将来の夢を時間を忘れて語り合う……そんな奇跡のような日常が手に入るのなら私は____
____否、馬鹿な事を
願えば願う程、叶わぬ夢に幾度も八つ裂きにされてきたじゃないか。
ああ、そうだ、わかっている……そんな事は絶対に不可能だ。
人生の岐路に立った時、私に好きな道を選ぶ権利は無いのだ。
だから私は力ない笑顔を作ってこう言った。
「もう、決めた事ですから」
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