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念を追って辿り着いたのは、よりによって神聖な御神木だった。
そこには鶯色の着物のほとんどを剥され、橙色の月明かりに肌を晒し怯える佐知子と、父の元で一緒に修行を積んでいる兄弟子の姿があり、二人を目にした途端、私の感情は爆発した。
「何をしている!」
私の大声に、兄弟子は弾けたように佐知子から飛び退いた。
悪事を働いたという意識があるのか、顔は無様なまでに狼狽えている。
その兄弟子の着衣に乱れが無い様子から見て……どうやら最悪の事態は免れたようだ。
私は彼女の無事に安堵し、深く息を吐いた……が、これで終わりではない。
そう、このまま何も無かった事にする訳にはいかないのだ。
「佐知子さん大丈夫ですか? 怪我はないですか? もう大丈夫です、着物を着てください」
「…………はい、」
消え入るような返事と衣擦れの音。
私は佐知子の裸身を見ないよう顔を反らす。
その時、視界の端に一瞬見えた手首の痣が痛々しくて、何故もっと早く来れなかったのかと悔やまれた。
「なあ、そんなに怒るなって。ただの遊びだよ。彰司君も男だから解るだろ? なんなら一緒に楽しむかい? それにこの子も本当は嫌がってないはずさ」
開き直る兄弟子の暴言に、声を殺して泣く佐知子を見た私の怒りは頂点に達した。
「嫌がっていない? 本気でそう思っているのですか? こんなに彼女は震えてるのに……? 声を殺して泣いてるのに……?
いい加減にしろ! 嘘をつくな! 彼女が感じた恐怖、羞恥、絶望の念が濃霧のように飛散しているじゃないか! あなたも霊力者だろ! それが分からないとは言わせない! なのにわかっていながら自身の欲を優先させたんだ!」
自分より十近くも年下で、普段は大人しい私の怒りに、兄弟子は呆気にとられていた。
そして先程までのふざけた態度を改めこう言った。
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