好きという感情

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「彰司君……もしかして君はこの子が好きなのか?」  まさかそんな事を聞かれるとは夢にも思わず、動揺した私は何も答える事が出来なかった。  私が佐知子を好いている……? 初めて会ったあの日から、彼女が気になって仕方がなかった。 もう一度会いたいと、この二週間はそればかりを祈っていた。 会えない佐知子に対し、何度霊力(ちから)を使って居場所を知ろうと思ったかわからない。 だけど出来なかった。 何も知らない佐知子を無断で覗き見るなんて、卑怯で恥ずべき行為だと思ったからだ。 これが……好きという感情なのか……?  わからない……恋人はおろか友人すらいない私には判断がつかない。 ただひとつ、これだけは言える。 佐知子が誰かに傷つけられたり、辛い思いをする事は、私にとって耐え難い怒りであり悲しみとなる。 いつまでも黙り込む私の返事は諦めたのか、兄弟子は躊躇いがちにこう言った。 「そうか……知らなかった……悪かったよ。俺はもう、この子に手を出さないと約束する、本当だ。だけど気を付けた方がいい……俺以外の奴も、みんなこの子を狙ってる。彰司君は知らなそうだから……その……言いにくいけど……この子はその為に(・・・・)この屋敷に来たんだ。彰司君を含めた修行中の……俺達の性欲を処理する為にね」 「性……って……なにを馬鹿な! 違います! 彼女は女中として働きに来たんですよ?」 予想外の内容に冷や汗が流れた。 信じられない思いで佐知子を見ると、否定も肯定もしないまま、ただ押し黙り俯いている。 「表向きはそうだ。施設で育ったこの子は十八になり、この屋敷で働く事が決まった。そのお礼として、瀬山家から施設に多額の寄付が送られたとされてるけど……実際のところ順番が逆だ。多額の寄付のかわりに自由にできる女を買ったんだ。身寄りが無く文句の言えない女をね。後は……この子本人に聞いてくれよ」 「それはやはり……すべて父がした事なのですか……?」 「ああ。ここにいる男達は休みの日には街に女を買いに行くだろう? 先生もそれは黙認してる。だけど十六歳になった彰司君がこの先、兄弟子達の真似をして街に入り浸りにならないようにと女を用意したんだ。それでその……みんなも自由にしていいとお許しが出てな。この子もここに来た日に先生が話をして納得したと聞いたんだが……まあ選択の余地はなかったんだろうよ。断れば寄付金の返還を求められる。施設に残した幼い子供達の為に覚悟を決めたと思っていた……クソッ、喋りすぎたな。もういいだろう? 俺は行くからな」
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