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誕生日の夜、私は父の部屋に呼ばれた。
「彰司もとうとう二十歳になったか。おめでとう。大人の仲間入りをしたからには、そろそろけじめをつけないとな。十六の頃から四年間、女と暮らす事を許してきたがそれも今日で終わりだ。彰司、一族の中でも霊力が強い、いとこの千津を覚えてるか? その千津が十八になった。そこでだ、千津と結婚して子供を作れ。より強い霊力者を残す為に。わかったらすぐにでもあの女を追い出してこい。もしぐずぐず言うようなら、まとまった金でも渡してやれ」
千津と結婚……?
佐知子を追い出せ……?
なにを言っているのか、理解するのに数瞬の間が必要だった。
「父様、待ってください! 私が千津に会ったのは10年以上前ですよ? ろくに顔も覚えていないのに、霊力が強いというだけで結婚しろとは乱暴すぎます。それに……私は……私は結婚するなら佐知子以外に考えられません! どうかお願いです! 佐知子以外の事ならなんでも父様の言い付け通りにしますから! 結婚だけは、それだけは私の願いを聞いてください! 佐知子と一緒にさせてください! この通りです……!」
私は額を畳に擦り付け必死に懇願した。
そんな私を上から眺める父は、吐き出すように、
「だめだ。なんの為にお前を育ててきたと思ってる。この家を守る為だ。霊媒師一族として強い霊力者を残す為だ。それなのに、あの女と結婚したいだと? あの女を一族に迎えて何の役に立つ! 笑わせるな! お前は千津と結婚するのだ! これは命令だ! それからな、もし、あの女と駆け落ちしようと思っても無駄だからな。私の霊力でどこにいようとすぐに見つけ出すぞ! いいな! わかったら、この部屋から早く出ていけ! 不愉快だ!」
野良犬でも追い払うかのような父の怒鳴り声。
幼い頃から薄々感じていた事が今日ではっきりとした。
私はこの家の息子などではない。
血の繋がりなど何の意味も持たない。
父にとって私は…ただの道具にすぎなかったのだ……!
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