第四章 ずっと一緒にいたいから…

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「誕生日おめでとうございます、私より二年遅れの二十歳ですね」 父の部屋から戻り自室の戸を開けた瞬間、佐知子が胸に飛び込んできた。 四年間で私の背はずいぶんと伸び、何も知らない佐知子は無邪気に私を見上げている。 ああ、愛しい佐知子、 君を失うなんて、とてもじゃないけど耐えられない。 「佐知子……ねぇ、佐知子……僕はね、ずっと君と一緒にいたいんだ」 佐知子の頬を両手で包んでやると、ほんのりと赤く染まり、そのぬくもりに泣き出しそうになった。 君がいない人生に、なんの意味があるのだろう。 「私も同じ気持ちです。二人がお爺ちゃんとお婆ちゃんになっても、ずうっと一緒にいたいです。……私がしわくちゃのお婆ちゃんになっても好きでいてくれますか……?」 そう言ってはにかむ佐知子に、私は返事が出来なかった。 私は近いうちに千津と結婚させられる。 顔も覚えていないのに、お互い好き合ってもいないのに、私の……いや、千津の気持ちも関係無しに、霊力が強いというだけで子供を作れと強制される。 君を捨てて、自分も捨てて、この家を継がされるんだ。 「……どうしたのですか?」 佐知子の細い指が私の目元を拭った。 どうやら私は、気づかぬうちに泣いていたらしい。 心配そうに見つめる佐知子の手を握り、その澄んだ瞳を見つめていると幾分心が落ち着いてきた。 お爺ちゃんとお婆ちゃんになるまで一緒にいたいと言う佐知子の願いを叶えてやる事はできない。 だけど……ずっと一緒にいられる方法が一つだけあるんだよ。 「佐知子、君を心から愛しているんだ……僕は佐知子と別れたくない。ああ、君を失うのが怖いんだ。だけど、もうどうにもならなくて……他に道は無くて、だから、だから……すまない、……僕と一緒に死んでくれるかい?」 唐突に放った私の言葉に、佐知子は一瞬驚きの表情を見せた。 が、すぐに笑ってくれた。 「はい、いいですよ」 私の様子に、何か察するものがあったのだろう。 佐知子は短い返事をしただけで、理由を聞こうとしなかった。 ただ私の胸に顔を埋め、猫の仔のように甘えていた。 純粋で優しい、たった一人の愛する佐知子。 私は強く抱き締め安堵した。 ああ、佐知子。 これで私達はこの家から解放されるのだ。 これからは誰に邪魔される事無くずっと一緒にいられる。 二人は暫く見つめ合い、最初で最後の口付けを交わした。 ◆ 二人死ぬなら、最後の場所は御神木以外考えられなかった。 遠くへ逃げたところで父の霊力ですぐに見つかってしまう。 ならば、いっそ屋敷の中で決着をつける方がうまくいく。 初めて二人が出会った御神木で、死を経て黄泉の国へ旅立つのだ。 時は深夜。 御神木の根を枕にし、湿った土に横たわると指を絡めた。 「佐知子……本当にいいのかい?」 「はい。私はただ、彰司さんと一緒にいたいだけです。生きていても、そうでなくても良いのです。私には霊能力がないので、黄泉の国がどんな所かわかりません。だけど彰司さんが一緒なら何も怖くないのです、」 そう言って笑う佐知子は、最後まで死を選んだ理由を聞こうとはせず、躊躇う事なく毒を飲んだ。 続けて私も毒を飲む。 苦しさは無いが激しい眠気に襲われた。 あの時、私達は確かに幸せだった。 そして薄れる意識の中私は呟いた。 佐知子、また後で____
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