最終章 光りの矢

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◆ 私は五十年前の苦い日々を振り返り、御神木にそっと身を寄せた。 あの夜父は死にかけた私達を見つけ、私だけを助けた。 かわいそうに……残された君は一人ここで死んだんだ。 亡骸は昔、君に乱暴しようとした兄弟子が破門覚悟で御神木の下に埋めてくれた。 本当にありがたかった。 後悔と絶望と諦めと惰性、これが私の七十年だ。   私はね、抜け殻になってしまってね。 もう一度死ぬことも出来ず、食っていく為に降霊術を使い続け何万のも死者を呼び出してきた。 だけど私は一番会いたい君を呼び出す事がどうしても出来なかった。 私の霊力(ちから)なら呼び出した君を抱きしめる事もできるのに。 君に会うのが恐かったんだ。 きっと君は私を恨んでる、そう思い逃げてきた。 でもね、こんなに老いて、君に自然に会える日が近づいてくると気持ちが変わるものなんだ。 恨まれていてもいい。 罵倒されてもいい。 それでも逢いたくてたまらないんだ。 もう迷わない。 佐知子____ 今夜、君を呼び出そう。   私は今まで何万回と組んできた口寄せの印を結び、精神を集中させて佐知子を呼ぶ。 佐知子、ここに来てくれ、 私の元に。
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