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見た目からして乗り心地が悪く会話も出来ないようなうるささだという印象だったが、そんなことは無かった。
シートの座り心地は家のクルマより良いし、音も車内には思ったほど入ってこない。
恵里の座っているシートは違ってて、チャイルドシートを大きくしたような形。座っていると言うより収まってるって表現が正しい気がする。フルバケットシートって言うらしいけど。簡単にやってたけど、乗り降りはしにくそうだ。
思いの外、快適なクルマだ。ただ……。
「高速入るよー。しばしの拘束プレイをお楽しみあれ。高速だけにね」
「全然上手く無いッ!!」
ツッコミすら必死になるレベルでシートに押しつけられる。吠えるエンジン。大パワーの掃除機のような空気の吸う音が混ざる。
タイヤも一瞬鳴った。目の前の景色が後ろに飛んでいく。この絶叫すら許されない状況は、今まで乗ってきたどんなジェットコースターでも再現できないだろう。レールが有る限り。
それを涼しい顔で走らせる恵里。このクルマがこんな加速する事が分かっているような表情だ。それが本当か分からない。
高速の流れに乗ると息をしてなかったことに気付く。大きく息を吸った。
「ちょっと恵里ッ! 事故ったらどうすんのよ!?」
「え? タイヤは滑る要素無かったし、滑っても立て直せるし、本線の状況からして立て直すためのスペースもあるし、タイヤ鳴ったのは繋ぎ目のせいであって、それも前提の加速だったんだけど?」
「いや、こっちは分かんないって」
予想外の答えに、この返答しか出なかった。本当に初心者マークの免許取り立てなのだろうか。
「30キロから110キロまでしか加速してないし、半分くらいしか踏んでないよ? フルブースト掛かってないし」
「家のクルマより鋭い加速だったんだけど」
「シエンタと比べたらかわいそうよ。こっちは1300キロ代のボディに最大350馬力なんだから。チビった? そのパンツ売る? 顔写真付きで」
「チビって無いし、売る気も無い」
ケラケラ笑う恵里に沙希は突っ込みつつ安堵のため息をした。
流れに乗ってしまえば、恵里の運転もクルマも快適なのだ。
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