SS.1「クリスマス」

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スタッドレスに変えておいて正解だった。ブリヂストンのアイスパートナー。安物だが、十分に効く。 それに、このヴィヴィオは四駆。雪道では水を得た魚のように走る。 しかし、前を走るステップワゴンは雪道に慣れていないため、ゆっくりと走る。 追い越そうにも、対向車がいて一向に追い越せない。そして、慣れない雪道で後ろを見る余裕など無いらしく、譲る気配も無い。 信号で止まる。ステップワゴンは黄色信号を無視気味で直進した。時計を見ると、22時50分。買い物に寄った所でも混んでいて時間を食った。 大型の平トレーラーが目の前に入った。ため息をすると、信号が青になる。ギヤを二速に入れてクラッチを繋げた。 遅くなる。決定事項だ。空荷とは言え、緑ナンバーのトレーラーは安全運転。ペースが上がることはまず無い。 三速、そして四速。追い越そうにも20m近くありそうなトレーラーは、いくらスーパーチャージャーが付いているとは言え660ccでは難しそうだ。 五速に入れた。違和感を覚える。トレーラーとの車間を維持するほど近づいていないのに、スピードは50km/hで、法定速度ピッタリ。ステップワゴンは30km/hくらいで走っていたはず。 良く見れば、トレーラーのナンバーは八戸ナンバー。確か、フレンドリーで見た目とのギャップが激しいハリウッド女優の乗っていたランエボも同じ八戸ナンバーが付いていたはず。 納得した。雪国で培った運転は後ろで見ても安心だ。たとえ、トレーラーヘッドがケツを振っても。 ステップワゴンがハザードを出して道を譲っていた。 「助かる」 信号で止まり、エアブレーキのエアが抜ける。タイミングはまるで返事をしたようだった。 右折レーンに入って、右折可の信号で右に曲がる。後ろに先ほどのステップワゴンが付いてくる。 60km/hまで加速する。ダートで鍛えられた腕は、このアスファルトが見えている雪道はウェット路面と大して代わらない。 ヘッドライトが離れていく。気持ち的にそうとう楽になった。
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