SS.1「クリスマス」

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山中峠の展望台にシルビアを止めた。降り始めて軽く積もった程度であれば雪の影響はFRでもそこまで大きくない。 ただ念のため、トランクに新品タイヤを履かせたシュティッヒを鎮座させているが。 ヘッドライトを消して美波は外に出た。 大粒だった雪も小さくなり、舞うように降りてくる。 眼下に広がる街の明かりはクリスマスで祝うイルミネーション。色とりどりの明かりが真っ黒な絨毯を彩っていた。 ケータイの画面を見る。23時を過ぎている。着いたよ、と連絡しようとしたが、止めた。きっと、いや絶対に、ここに向かっている。 約束は守る。それが俊哉の、信じる恋人たるべき資格を持つ人の長所。 フェンダーに腰掛け、ベストのポケットに指出しの手袋をした手を突っ込む。吐く息は降りてくる雪のように白い。 いつも待たせているから、たまには待つのも悪くない。
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