[芹香編] 第5章 芹香side

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…… その数時間後。 私たちは昂さんの家の前で立っている。 正確には、叔母さんが借りたという、 年季の入った一軒家の前で立っている。 気のせいか建物より庭の方が広いようだ。 とてもよく手入れされたその庭は、 冬だというのに緑が青々と茂り、 少ないながらに花も咲いていた。 「この葉っぱ、ゴジラの尻尾みたいだね。 ところどころに紫色の花も咲いているよ」 そんなことを言っていると、 ガラリと玄関の引き戸が開き、 聡明そうな女性が顔を覗かせた。 「ああ、それはローズマリーよ。 茎を折ってごらん。 爽やかな香りがするから」 挨拶より先に、私はそれを試す。 ポキリと折った途端、 清々しい香りが広がる。 「いらっしゃい。昂の叔母の容子です」 「初めまして、柳沢芹香と申します」 その人は、不思議な魅力のある女性で。 凛として見えるのに、 敢えて隙を作っているような、 誰でも受け容れそうなのに、 易々とは打ち解けないような。 柔らかさと厳しさを 併せ持つ女性だった。 「もう中に入ろう。おいで芹香」 「お邪魔します」 「はい、どうぞどうぞ」 挨拶を簡単に済ませ、中へ足を進めると、 居間には婚約者らしき男性がひとり、 ボンヤリと自分の爪を眺めている。
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