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……
その数時間後。
私たちは昂さんの家の前で立っている。
正確には、叔母さんが借りたという、
年季の入った一軒家の前で立っている。
気のせいか建物より庭の方が広いようだ。
とてもよく手入れされたその庭は、
冬だというのに緑が青々と茂り、
少ないながらに花も咲いていた。
「この葉っぱ、ゴジラの尻尾みたいだね。
ところどころに紫色の花も咲いているよ」
そんなことを言っていると、
ガラリと玄関の引き戸が開き、
聡明そうな女性が顔を覗かせた。
「ああ、それはローズマリーよ。
茎を折ってごらん。
爽やかな香りがするから」
挨拶より先に、私はそれを試す。
ポキリと折った途端、
清々しい香りが広がる。
「いらっしゃい。昂の叔母の容子です」
「初めまして、柳沢芹香と申します」
その人は、不思議な魅力のある女性で。
凛として見えるのに、
敢えて隙を作っているような、
誰でも受け容れそうなのに、
易々とは打ち解けないような。
柔らかさと厳しさを
併せ持つ女性だった。
「もう中に入ろう。おいで芹香」
「お邪魔します」
「はい、どうぞどうぞ」
挨拶を簡単に済ませ、中へ足を進めると、
居間には婚約者らしき男性がひとり、
ボンヤリと自分の爪を眺めている。
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