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その時間は、なんだか不思議な時間で。
『結婚式の前夜』という大切なときを、
普通だったら、家族と過ごすはずで。
でも容子さんは両親もお姉さんも
既に亡くなっていて、
明日から夫となる男、
甥とその交際相手の女、
…というヘンテコな顔ぶれで、
ただグダグダと喋っているのだ。
もうすぐ日付が変わりそうな頃、
容子さんが布団に入ると言い出した。
「身内だけの式とはいえ、
この年齢で白いドレスを着るでしょ?
きっと肌のくすみがハンパないよね。
最後の足掻きだと思うけどさ、
コンディションだけでも整えたいから、
ゴメンもう寝ます」
どうぞどうぞと皆んな笑顔で手を振り、
そのまま3人でお酒を飲み続ける。
しばらくして河合さんが小声で言うのだ。
悪戯っ子みたいな目をして、
それはそれは優しい声で。
「知ってる?
容子さんの携帯の電話帳に、
昂くんが何て登録されてるか」
「…え、さあ??」
「ほら、外出先でいきなり倒れたら
電話の発信履歴とかで連絡するでしょ?」
「ああ、そうですね」
「あの人シッカリ者だからさ、
関係を分かり易くしようと名前の後ろに
続柄もカッコで入れてるんだ」
「…へえ」
「キミは『米田昂(唯一の家族)』って、
そう登録されているんだよ」
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