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飄々とした表情で、その人は続ける。
「明日でもう『唯一』じゃなくなるけど。
俺も加わっちゃうんだ。よろしくね」
…昂さんは返事をしなかった。
胡坐をかいたまま、
鼻先が鎖骨に触れそうなほど、
顔を伏せていて。
微かに肩が震えているので、
たぶん泣いているのだろう。
静かに静かに声も出さずに。
その姿を見て河合さんは微笑み、
再び口を開く。
「全部聞いたよ。
最初の結婚が破談になった理由も。
…てことはさ、昂くんのお陰で
容子さんがずっと独身のままいてくれて、
こうして俺と出会えたんだよね?
俺、昂くんに感謝しなくちゃ。
…あとさ。
容子さんは知っての通り、タフな女で。
まあ、育った環境から考えると、
それは仕方ないと思うんだけど。
えっと、何を伝えたいのかって言うと、
そうアレだ。
容子さんはメチャクチャ
昂くんを可愛がってて。
『昂がいたから私も頑張れた』とか、
『昂のお陰で生きてこれた』とか、
本人に向かって言える性格じゃないんだ。
でも、そう思ってるから。
俺にはそう言ってたから。
だから俺が代わりに御礼を言うよ。
『昂くん、家族になってくれて有難う。
いつも一緒にいてくれて、有難う』」
…その言葉で昂さんは一瞬だけ顔を上げ、
声を出して泣き始めた。
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