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言葉はときに、ちゃちで。
軽くて、不安定だけど。
私たちが思いを伝えるには、
それに頼るしか無いのだ。
「昂さん、まだまだだよ。
私がもっともっと幸せにしてあげる。
…えっと、おいで!」
彼の真正面に立ち、両手を広げた。
「な、なに?
急に芹香が男前になっちゃったぞ」
「ごちゃごちゃ言ってないで来てよ。
抱っこしてあげるからッ」
『ははっ』と昂さんが笑い、
勢いよく私の胸に飛び込んでくる。
身長差のせいで、
結局は私が抱かれている感じだけど、
それでも挫けずに私は言う。
「人間には必ず寿命が有って、
まんべんなく死ぬようになってるの。
そんなモンに怯えていたら、
生まれたこと自体、無意味になるし、
『じゃあなんで生まれてきたか』って、
たぶんそんなの誰にも分らないんだよね。
…1つだけ分かるのは、
誰かのために用意されていたのかもって。
容子さんにとって、
昂さんが生きる希望になったみたいに。
西村さんにとって、
華子ちゃんが心の拠り所だったみたいに。
ねえ、私も昂さんにとって、
特別な存在になったと、
自惚れてもいい?」
昂さんは恥ずかしそうに『うん』と頷き、
それからこう付け加えた。
「芹香、俺のために生まれてきてくれて、
ありがとう」
だから私もこう答えた。
「…昂さんこそ、ありがとう!!」
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