前進

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「……? 幸?」  彼がふと私の名前を呼ぶ。その声で私は正気に戻る。 「あ……なに?」  またしても私はそっけなく返事をする。 「また、思い出したのかと思って。大丈夫?」  思い出す、と言うのは私の過去に起こった事件のこと。今となっても拭えないトラウマとなり私を縛っている。  だが、それを言い訳に進まないのはもうやめたい。そう思うばかりだった。 「いや、大丈夫」  そっか、ならよかったと言って私に手を差し伸べる。  ――――今しかない。私はどうなったとしても、彼を辛くさせたくない。  その考えにたどり着く。そして差し伸ばされた手を、強めに引き寄せる。  彼はバランスを崩してまた私に覆いかぶさる。 「……! どうしたの?」  彼が驚いてそう聞いてくる。私は必死に言葉を探す。数秒の時間が私にとっては長く感じ、そして貧相な語彙力は蓄えた言葉を吐き尽くした。そう悟った私は、彼の背中に腕を回す  混乱した彼は少し迷うも、やはり私と離れようとする。 「……私と近いのは、嫌なの?」  すると首を横に振る。 「嬉しいよ。ずっと無理させてると思ってたから」
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