前進

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「……馬鹿。こんなに私のことを考えてくれる人と無理して付き合うわけ無いじゃん」  やはりどこかつっけんどんになってしまう。それでも彼は私の言葉を汲み取って、顔を赤らめる。 「そ、それは当たり前じゃん。こんなに心許してくれてるんだから、応えないと……」  最後のほうはごにょごにょと聞けず、顔を隠すため私の胸に顔を埋めた。少しびっくりしたものの、不快ではなかった。しかしやはり密着するのは恥ずかしかったのかわたわたとするのが可愛い。そのまま腕に力を入れて抱き寄せる。するとおとなしくなり、私の首に腕を回す。  少しの間抱き合って、私は彼にこう言った。 「顔、見たい」  すると少し離れて彼の顔が数センチ前に現れる。  真っ赤な顔で照れているのがわかった。でも私の顔から目を離さない。  そして私は人生の中で一番勇気を振り絞ったと思う。  目を閉じて彼の唇にそっと私の唇を重ねた。それはほんの一瞬で、それでもこのぬくもりは永遠に忘れない。
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