0人が本棚に入れています
本棚に追加
目を開けると顔中真っ赤で目が泳いでいた。そして唇を尖らせてこう言う。
「……ずるいよ。最初は僕からだと思ってたのに」
その顔を見ても、ここまでしても、私は表情を変えることが出来なかった。まだ。男の人が怖い。その思考が私の頭を過り、罪悪感に見舞われた。
「ごめん、どうしても、笑えない」
「……なんで謝るのさ」
「だって、伝えられないじゃん。嬉しいとか、悲しいとか、楽しいとか、辛いとか」
「……それでも、困ったことは一度もないよ」
「……どうして?」
「言葉にしてくれるから。言葉数が多かったり少なかったりで大体わかるんだよ」
少し考えて、私はこんな言葉を投げつけるしかできなかった。
「……変態」
「いいよ、なんと言われても。僕は幸が好きだから」
頬が熱くなる。数センチの距離、そしてまっすぐな言葉。
「……ずるい、バカ。……私も大好きだよ、優くん」
そう言って二度目のキス。今度は少し長め。物惜しそうに唇を離し、彼が私に向けてこう言った。
「顔赤いよ。すごく可愛い」
「っ、るさい」
そう言って軽く頬をはたく。彼は笑い、私は少し頬を膨らませる。
「さて、準備しようか。もう夕方近いよ」
そう言われて時計を見るとだいぶ時間が経っていた。
「……逃げた」
彼は笑いながら、だって終わらないじゃんと告げる。まさしくその通りだが少し寂しい。
それでもゆったりとした夜は約束されているので心配はなかった。この先もいつも通りに終わり、いつも通りに始まる。そう思いながら私は準備を再開する。
少しだけ自身を持って、少しだけ前に進めた。
そんな聖夜前日だった。
最初のコメントを投稿しよう!