前進

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 目を開けると顔中真っ赤で目が泳いでいた。そして唇を尖らせてこう言う。 「……ずるいよ。最初は僕からだと思ってたのに」  その顔を見ても、ここまでしても、私は表情を変えることが出来なかった。まだ。男の人が怖い。その思考が私の頭を過り、罪悪感に見舞われた。 「ごめん、どうしても、笑えない」 「……なんで謝るのさ」 「だって、伝えられないじゃん。嬉しいとか、悲しいとか、楽しいとか、辛いとか」 「……それでも、困ったことは一度もないよ」 「……どうして?」 「言葉にしてくれるから。言葉数が多かったり少なかったりで大体わかるんだよ」  少し考えて、私はこんな言葉を投げつけるしかできなかった。 「……変態」 「いいよ、なんと言われても。僕は幸が好きだから」  頬が熱くなる。数センチの距離、そしてまっすぐな言葉。 「……ずるい、バカ。……私も大好きだよ、優くん」  そう言って二度目のキス。今度は少し長め。物惜しそうに唇を離し、彼が私に向けてこう言った。 「顔赤いよ。すごく可愛い」 「っ、るさい」  そう言って軽く頬をはたく。彼は笑い、私は少し頬を膨らませる。 「さて、準備しようか。もう夕方近いよ」  そう言われて時計を見るとだいぶ時間が経っていた。 「……逃げた」  彼は笑いながら、だって終わらないじゃんと告げる。まさしくその通りだが少し寂しい。  それでもゆったりとした夜は約束されているので心配はなかった。この先もいつも通りに終わり、いつも通りに始まる。そう思いながら私は準備を再開する。  少しだけ自身を持って、少しだけ前に進めた。  そんな聖夜前日だった。
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