最後のプロポーズ

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大学在学中、僕は玲奈と会うことはなかったけれど時々、 (玲奈は元気にしているかなぁ…) と思い出すことがあった。 僕は大学を無事4年で卒業して、自動車メーカーのエンジニアとして就職した。 2ヶ月間の新人研修を終えて、6月に希望通り研究開発部門に配属になった。 6月1日の配属当日、配属先の先輩社員の方々の前で僕は緊張しながら挨拶をしたけれど、皆さん笑顔で迎え入れてくれて僕はホッと安堵した。 配属先の先輩社員の皆さんは、職場のことがよくわからない僕に気軽に声をかけてくれて、優しく丁寧にいろいろなことを教えてくれた。 仕事のことだけではなく、ランチの時に安くておいしいレストランのことや、夜飲みに行くなら刺身と焼酎がおいしい居酒屋のことなども教えてくれた。 僕は、この職場なら何とかやっていけそうだと思っていた。 翌日以降は通常勤務で、僕は少し早い時間に出社した。 自分の席について仕事の準備をしていると、朝のビル掃除の女性がフロアに掃除機をかけているようだった。 フロアの端から掃除機をかけているようで、少しずつ掃除機の音が大きくなってきて、僕の席に近づいていることがわかった。 掃除機の音が、僕の席のすぐ横まで来たと思ったら、掃除機の音が止まって声をかけられた。 「ひろ?」 僕が振り返ると、そこには清掃員の制服を着ている玲奈が立っていた。 僕は思わず、 「玲奈!」 と返事をした。 僕は懐かしさと嬉しさで、満面な笑顔になっていたと思う。 でも玲奈は、少し引きつったような笑顔で、僕に話しかけてきた。 「そっか、ひろはこの会社の社員さんなんだ!  すごいね!」 玲奈が仕事中ということもあり、ゆっくり話せなかったけれど、玲奈がフロアの掃除を終えて片付けをしているときに、僕は自分の携帯の番号とメールアドレスを書いたメモを手渡した。 「もしよかったら連絡して!  食事にでも行こうよ!」 すると玲奈が、 「わかった!  連絡するね!」 といって、僕のメモを受け取ってくれた。
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