第一章

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 五月というのは、とても過ごしやすい時期である。暖かすぎず寒すぎずの穏やかな気候で、新学期の環境にもなれる頃だ。だが、五月病というのがあるように、ストレスが溜りやすい時期でもある。  ここにも一人、ストレスを募らせている少年の姿が。  井瀬塚祥(いせつかしょう)は、隣の席に座るクラスメイトを見つめていた。いや、正確には睨んでいた。ヘッドホンをして机に顔を伏せている彼を。 (あいつ、本当にヘッドホン外さないよな……)  外界からの干渉を全く受け入れないといった様子の彼――園山永緒(そのやまながお)は、高校二年生に上がる時にこの学校に来た転校生だ。彼は朝来てから夕方帰るまで、授業中ですらヘッドホンを外さない。  どの先生に注意されても聞かないため、祥はその責任感の強さを買われて、担任から園山を説得して欲しいと頼まれていたのだ。  それから一週間、ヘッドホンを外すように言い続けてきたが、まるで聞く耳を持たれない。いささか気性が荒い祥にとっては、そろそろ我慢の限界だった。 (くそ、こうなったら実力行使しかない!)  椅子を鳴らして勢いよく立ち上がると、園山の机にバンッと渾身の力で手を叩きつける。    それに驚いた様子も見せずに、園山はゆっくりと顔を上げた。祥はできるだけ静かな口調で話しかける。
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