第一章

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  休み時間のため周囲はざわついていたが、急に始まったいさかいに視線が集まってくる。  そんなものさえ刺激となり、苛々を募らせていった。祥が手を強く握り締めた時、何かを感じ取ったのか園山がヘッドホンを外して首にかけた。  だがそれはもう遅い。    園山が察知したものは恐らく正しかった。祥は力を込めた拳を、相手の顔に向かって振りかざす。  が、園山は首だけを横に動かして、それを蝶でも避けるかのようにかわしたのだ。 (避けられた……!?)  園山は、祥が動揺した一瞬の隙を見て、胸倉を掴んでいた手を払い落とした。 (今度こそ!)  さっきよりも勢いをつけて拳を打つ。それも軽く避けられたが、園山の体勢が僅かに崩れた。そこを狙って足を払おうとするが、やはりよけられてしまう。  そうしている間に、相手を壁際に追い詰めることが出来た。 (これで最後だ――)  固く握った拳を繰り出す。怒りの感情を動力源にして放つそれは、一番の威力を持っていた。だが、またしてもひらりと避けられてしまう。    全力を尽くした勢いそのままに、祥の拳はゴキッという嫌な音とともに壁に打ちつけられた。 「もう終わり?」  頭上から澄ました声が聞こえてくる。いとも簡単に全ての攻撃をかわされた屈辱と、あまりにも白々しい園山の態度への憤りが、一気に祥のもとへ押し寄せた。 (こいつ……ッ)   その瞬間始業のチャイムが鳴り、園山は何事もなかったかのように自分の席に着く。  教室内の空気が静まり始め、皆授業に備えようと動き出した。    祥も自席に戻り何とか鬱憤を鎮めようとするのだが、一度頭に血が上ってしまえば、なかなか下がらない。  授業が始まって徐々に落ち着きを取り戻していったものの、その後祥が隣の席を見ることはなかった。 
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