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「このヘッドホンは、中学に上がるとき父さんに貰ったんだ。でも、これでもいじめは無くならないって分かってたから、今みたいにずっと付けてはいなかった」
いいお父さんだな、と言ったら、園山の家は父子家庭であることを教えてくれた。その父も出張が多い仕事で、今はほぼ一人暮らしの状態だそうだ。料理ができるのもそのせいだという。
「それで、高校は地元の人がいないとこにして、入ったら絶対にヘッドホン外さないって決めたんだ。とにかく自分を守ろうと思って。でも毎日先生に怒られるし、態度が悪いと思われて停学になったこともあるし。いっそ退学になる前に転校することにしたんだ」
そして、他に地元の人が誰もいないこの学校を選んだ、とのことだ。
祥は思った以上に園山のこれまでの人生が辛いものだと知り、少なからずショックを受けていた。
「情けないよね。嫌なことから逃げて、こんなに遠くまで来ちゃって……」
「情けなくなんかない! 園山は凄く頑張ったよ。だから、もう俺が、お前を絶対独りにはしないから」
「ありがとう……本当はね、こんな力、嫌で嫌で仕方なかったけど、井瀬塚に会えたから、ちょっとだけ好きになった」
祥を抱く腕に力がこめられた。その手に自分のものを重ね、ぎゅっと握る。
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