第六章

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「――初めてっだったんだ」 「え、何が?」 「誰かに話しかけてもらったの、井瀬塚が初めてだったんだ」  祥に、園山が転入してきた当初の記憶がよみがえってくる。  だが始めは、ヘッドホンを付けっぱなしのクラスメイトを怪訝な目つきで睨みつけるだけだった。 「でもあれ、話しかけるっていうか、怒鳴りつける感じじゃなかったか」  確か園山への第一声は『おいお前、ヘッドホン外せ』だった気がする。 「それでも嬉しかったんだ、毎日毎日話しかけてくれて。このままヘッドホン外さなかったら、ずっと話しかけてもらえるんじゃないかって思ったりしちゃった」  そんな中、祥の怒りが爆発して園山を殴ろうとしてしまった。やはりあの時、心を読んで攻撃を見切っていたそうだ。 「でもね、それ以上に、井瀬塚の真っ直ぐな性格が好きになったんだ」 「ていうか、真っ直ぐすぎて逆に短所じゃねえか?」 「そんなことないよ。初めて一緒に帰った時、井瀬塚は俺なんかにも優しくしてくれて、好きなものを偽らなくて、正直で、本当にすごいと思ったんだ」
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