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しばらくすると、トレイに2人分のマグカップを乗せて箕澤が戻ってきた。
「お待たせ。」
箕澤が柔らかな笑みを浮かべたのを俺は初めて見た気がする。
こんなふうに笑うやつだったのかと、箕澤の新たな一面に俺はドキリとした。
「ココアしかなかった。飲める?」
「うん。大丈夫。ありがとう。」
マグカップのひとつを手渡されて、笑顔を向けてお礼を言うと箕澤の頬が赤く染まった気がした。
箕澤は顔が悪いわけじゃない。
むしろ良いのに、クラスで笑うことなんてなく人を遠ざけているような雰囲気があるから、箕澤に話しかけようなんて思う人はなかなかいない。
今までのイメージと違って、普通に話せている今の状況に、俺は内心では驚いていた。
「勝手に連れてきてごめん。俺、松永と話したかったから。」
「そっか。いいけど、電話だけ貸して。遅くなるって家に連絡するから。」
遅くなるなら家に電話を入れなきゃならない。
高校に行けば少しは変わるだろうけれど、連絡ひとつで遅くなっても泊まっても何も言われなくなることは有り難い。
「いいよ。はい、これ。」
「ありがとう。」
電話の子機が部屋に置いてあったようで手渡され、俺は家に連絡を入れた。
「もしもし、母さん?今同じクラスの友達の家にいて、家に誰もいなくて挨拶は出来てないんだけど、帰り遅くなるかもしれない。」
『あら?お家の人帰ってこないの?』
電話の向こうの母さんの声が大きかったらしく、隣に座る箕澤には聞こえたようで、首を縦に振っていた。
「そうらしいよ。」
『だったら泊まらせてもらっちゃいなさい。ひとりでなんて寂しいでしょ。お礼は後でするからって伝えてもらえる?』
箕澤を見ると笑みを浮かべていて、伝わったのだと思う。
なぜか今日は泊まれという母さんがどこか変だとは思ったけれど、箕澤の話したいという言葉とこの部屋の寂しさに加え、家の人が帰ってこないことに俺は母さんの言う通り泊まることにした。
「わかった。今日は泊まるよ。」
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