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さすがに今日は媚薬は入っていなかったようで、少しだけホッとする。
なんとか身体も動かせるようになった俺は、荷物を持って自分の家に帰ることにしたけれど、箕澤の態度が俺と距離を置いているように思えて、感じた寂しさを隠すことで精一杯だった。
帰った家で待っていたのは、父さんと母さんが難しい顔をしながらリビングで座る姿で、この雰囲気はやっぱりそういう結果になったんだろうと、俺はずっと感じていたことが現実になるのだと思う。
「遊貴、お父さんとお母さん、離婚することになったわ。今年中にこの家を出て行くことになったの。遊貴はお母さんと一緒におばあちゃんの所に行くのよ。」
「そっか・・・。荷物は郵送?それともトラックでも来るの?」
俺はどこか冷静なまま昨夜の出来事も、身体に残る違和感も、箕澤に思った疑問さえ頭の中から消えていた。
「そんなに多くないから全部郵送するわ。今日、明日中に荷物を纏められる?学校の方には3学期から転校することを連絡してあるから大丈夫よ。」
「わかった。やっとく。」
いつの間に、とは思ったけれど、もしかすると昨日電話を入れた時点では、既に学校には連絡をした後だったのかもしれない。
俺は荷物を纏めるために部屋に行き、部屋の前に置かれたダンボールを使い、さっそく荷造りを始めた。
荷物を纏めながら箕澤の顔が浮かんでは消えていく。
身体に残る箕澤の感覚を思い出しながら、もう会えないのだと感じた。
俺が箕澤に感じたこの思いはまだはっきりと何なのかはわからないけれど、箕澤が俺を見下ろした時の苦しそうな、寂しそうな表情だけは頭から離れない。
母さんがお礼と言っていたことを思い出し、安物だったけれどペアのネックレスを買って、そのひとつを封筒に入れ、箕澤の名前を書いて短い言葉を書いた手紙と一緒に引越し直前にポストに入れに行った。
本人に会うことはなかったけれど、気に入らなくてネックレスを捨てられてしまうとしても、ただ俺は忘れてほしくなかったのかもしれない。
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