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「さよなら」
目の前の彼女が僕にそう告げると、長く艶やかな髪の毛を靡かせ、どこかへ歩き去ってしまった。
これが俗に言う、ふられた、という事なのか。
僕の感情は物心ついた頃から薄くて、周りから煙たがられてきた。
『ロボット』『のっぺらぼう』
つくあだ名はそんなものばかりで、傷つくどころか笑ってしまったのはいつのことだっただろう。
彼女と僕の家から近い公園。僕らは付き合っていた。2年前に、彼女が僕をここへ呼び出して、僕が先に告白した。女の子に言わせるほど無神経な僕じゃない。彼女と僕は確かに、両思いだった。学校帰りにファミレスに行ったり、プリクラを撮ったり、お互いの誕生日やクリスマスにはプレゼントを渡し合ったし、キスだってした。確かに、好きだった。1年半経って、映画デートの帰り、僕が彼女にキスをしようとした時、それは突然訪れた。否、突然ではなかったのだろう。彼女は肩を抱いた僕の手をぎゅっと掴み、震える声で呟いたのだ。
『私のこと、本当に好きなの?』
僕は何故か、答えることができなかった。沈黙は肯定。どこの誰が言い出したのかは知らないが、的を射たことを言うものだ。好きなの?という言葉は色々な意味が込められていた。疑念、期待、不安、悲哀、懇願。僕はその意味の重さを支えられるほどの感情が無かった。天秤にかければ、かけた瞬間僕が天高く舞うほど、軽かっただろう。遊びとかそういう意味では無く、感情を込めることができなかった。愛を、あげられなかった。申し訳ないと思う反面、仕方がないと思う自分がいる。僕には理解が出来ないのだ。愛とは何か。昔、小学1年生の頃、担任の女の先生がこんな学級通信を作った。『今日、○○君から、愛ってなんですかという質問を受けました』先生は熱血な人間で、その質問に感銘を受けたらしかった。しかし、愛を説明するにはまだ若かったらしく、答えの文章は曖昧だったことを覚えている。
僕は空を見上げてみる。空は好きだ。自由で、無邪気で、僕を包んでくれる、空。包容力という言葉は空から生まれたのではないだろうか。見上げた空では、もう夜が手を振り、朝が顔を出しかけていた。
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