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聖夜
クリスマスだというのに、塾以外何の予定もない。
冬休みは正念場だと、朝から晩まで塾にいて、とっくに日が暮れてから、やっと僅かな自由時間が手に入る。
俺だけじゃない。受験生なんてみんなこんなものだ。
そう自分を慰めての帰宅途中、せめてこれくらいはと、コンビニに立ち寄ってケーキを買った。
家に帰って、一人寂しくクリスマスケーキを食べる、か。
なんて侘しい聖夜だろう。
「田所?」
コンビニを出かけた瞬間声をかけられ、俺は入れ替わりに店へ入ろうとしてきた相手を見た。
「三島」
そこにいたのはクラスメイトの三島晴子だった。
「こんな時間にコンビニ~?」
「塾の帰りなんだよ」
「あー、そっか。…アタシも。で、田所は何買ったの?」
三島が喋りながら店に入って行くので、帰ることができず、俺はもう一度コンビニ内へ戻った。
「ケーキ」
「田所って甘党なの?」
「そうでもないけど、クリスマスだからさ」
「あーーー。そっかーー」
さも今思い出したという様子で声を上げ、三島はスイーツコーナーに向かった。どれにしようと物色しながら、途中て俺に視線をよこす。
「田所。席、確保しておいて。買ったら行くから」
ここのコンビニの一角には、店で買った商品を食べられるイートインスペースがある。
ケーキは帰って食べるつもりだったんだが、クリスマスなんだし、気の合うクラスメイトと向かい合っての方が絶対美味いよな。
「おう。待ってる。あ、三島の分奢るから、ついでにコーヒー買って来て」
「ラッキー。了解」
朗らかな了承を得て、俺はイートインスペースに向かった。
「受験生の、侘しいクリスマスに乾杯」
茶化し合いながら、ホットコーヒーのカップを軽くぶつけ合う。
思いもかけず、二人一緒の時間を過ごすことになったクリスマス。
まさか翌年から、もっと違う関係性でこの先ずっと一緒のクリスマスを過ごすようになるなんて、この時の俺達はまだ知らない。
聖夜…完
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