ある日の思い出

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「ふんふんふふ~ん♪」 ここは駅前噴水広場の一角。今日は休日のためか、いつもより人が多い気がする。澄み切った心地よい風が吹き抜ける中、私は上機嫌に鼻で歌いながら立っていた。まだ登りきってない太陽が放つ光が僅かに私の顔を照らす。そしてそれを避けるかのように後ろに下がる。 現在時刻は午前十時。 「……そろそろ来てもいいんじゃない?」 私はただここに立っている訳ではない。フォミットとここで待ち合わせをしているのだ。昨日彼から突然『明日の十時にあの噴水広場で集合だ』とメールが届いたので、『もちろん!』と私は返した。そして、今こうしてここに立っている。つまり今日は彼とデートだ。 しかし、呼んだ本人が遅いとはどういう事か。私は少しむっとしながら腕時計を見る。午前十時三分…… と、そこで――― 「おーーーい!アリアーーー!!」 と声がした。私ははっと顔をあげ表情を明るくする。先程までの暗い気持ちは嘘みたいに消えていた。彼は汗を垂らしながら駆けてきた。そんな彼がとても愛おしくて…、遅れて来てもつい許してしまうのだ。 だから私は笑顔でその声に答えた。 「…遅いよ~。私、三十分くらい前から待ってたんだよ?」 「わ、悪かったって!その、いろいろ準備が……、」 そう言う彼は私から視線を逸らす。 と、そこでアリアは気づいた。彼の顔に、見慣れないものがあることに。 そう―――メガネだ。彼はメガネをかけていたのだ。 「ねえ、フォミット。どうしたの?そのメガネ…」 と、彼の顔を覗き込む。…何故か赤くなっている、恥ずかしいのかな? 私はニヤリと笑った。 「…フォミットくーん、どうしたのー?メガネなんかかけちゃってー」 「い、いや。これは……その……」 「なにー?私になにか隠し事ー?それは良くないなフォミットくん。付き合うと決めた時に約束したでしょ、お互いに隠し事はなしにしようって」 「……そうだったな。───このメガネは」 「あ、やっぱいいや」 「なんでだよ!?」 そこで私は少し声を低くして言った。 「これは貸しだからね、私との約束を破った」 「す、すまない……、そういうつもりじゃ───」
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