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それから朝比奈倭は、私の手を引き歩き出す。
弄ばれている、と言っても可笑しくない関係だ。
たまに、強引になり
仮面を外して見せてくれる
これが自分だけだと思ったか?
優しさを見せたり
本当の笑顔を見せてたり
自分を贔屓目で見てくれてると勘違いしたか?
最初から言っていたことは貫いている。
朝比奈倭は間違った答えを言ってない。
強いて言うなら、変化があったのは自分の方だ。
無言のまま歩き、着いた自宅。
「…周音?どうかしましたか?」
「いえ。何でもないです。」
「そんな顔はしてませんけど?」
「元からこんな顔です。送っていただいてありがとうございました。」
すぐに踵を返せば、後ろからわざとらしい大きな溜め息が聞こえた。
「今のお前は全然可愛くねぇな。」
それだけ言うと足音が遠ざかっていく。
甘い時間も、言われた言葉も、朝からの記憶を全部反芻した。
甘い。でも、苦すぎる。
「……は……苦し……」
誰もいない大きな家。
しばらくボーッとしたあと自分の部屋へ。
窓を開ければ湿った空気。
いつの間にか降りだしていた雨を眺めながら、自分の恋心は厄介なものだと思い始めていた。
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