「私」が生まれた日

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 住宅地の中の一角にある自宅には小さな石畳が玄関まで敷き詰められていて、玄関横にあるポストは父親が趣味で作った、木で出来た縦型のポスト。そして庭をぐるりと回ってちょうど外から見えなくなった位置にある縁側。玄関や縁側の足元には小さなライトまでついていて、暗くなってもどこか温かみのあるこの家が、あかりはとても好きだった。 「ただいまー」 「おかえりー。お父さんもう帰ってるわよ」 「え、嘘。今日は早いね!」  玄関を開けて口を開けば当然のように返ってくる返事。この声を聞くと、家に帰ってきたという実感が湧き、不思議と心が落ち着く。奥から聞こえてきた母親の声を聞きながらあかりが目線を落とすと確かにそこには父親の帰宅を知らせる靴があった。 「あかり、おかえり」 「ただいま。お父さんもおかえり。今日は珍しく早いんだね」 「ああ。思ってたよりも早く仕事が終わってな。久々に定時で帰れたんだ」
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