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「私のクラスメイトが行方不明になった事件の説明よ」
理緒は、日誌から目を離さない。そんな事件より、今日の研究日誌に何が書かれているかの方が重大だと言った様子だ。
「あぁ、新聞にも載っていたね」
「メソメソ泣き出す生徒もいて、辛気臭かったわ」
「君は泣かなかったのか。まぁ、君が泣く訳がないか」
「イヤミのつもり? それに人の為になんか、私は泣かない」
「だろうね。あぁ、君が泣くと言えば、こんな話を思い出した」
「なに、言ってみなさいよ」
「賢いと言う事は、不幸だね。君は言葉で意思を伝えられるようになった3歳の時に、人は必ず老いて死んでいくものだと悟って泣いたそうじゃないか。以前、パーティーの席で、君の母上が笑って、そう話していたよ。私は笑えなかったがね。僅か3歳で人間の一生を憂いていたなんて、気の毒だよ」
「中々気付かない奴等が馬鹿なだけ」
研究所の中で2人きりになり、いつになく、理緒と博士は会話を交わした。
「馬鹿な事は幸せだ。君も他の子供達の様に、自分はいつまでも子供のままでいられると思い込んで、毎日遊ぶ事に夢中になれたら良かったのに」
「馬鹿な奴等は老いてから気付くの。失った時間を後から後悔する。もっと、有意義に過ごせば良かったのに、なんて思うのよ」
「そう言う君は時間を有意義に使っている最中なのかね」
「えぇ、もう最初から、遊びに耽(ふけ)る事が何も生み出さないと知っているわ。だから私は学ぶの。お遊戯なんて、幼稚園児の頃から馬鹿馬鹿しくて、エスケープしていたわ」
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