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23日午前9時前。
サタンはハローワークで女に渡されたメモに書かれていた住所の建物の扉の前に立っていた。
建物の最上部に取り付けられた時計が9時を指した瞬間、地面を揺るがす地響きのようなチャイムとともに扉が破壊され、真っ赤な恰好をした大きく痩せたサンタ、小さな太ったサンタ、毛むくじゃらなサンタまで風貌様々なサンタがソリに乗って飛び出していった。
チャイムが静まったころ、男は破壊された扉に近づき恐る恐る入ってみた。中は下町の酒場のようなところだった。木材を主な原料として作られた建物には、同じような木材で出来た机、長椅子がいくつもあり、机の上は飲みかけのビールや一口だけかじられたチキンやケーキが散らかっていた。飛び出していったサンタの恰好をした者たちが朝からお祭り騒ぎをしていたのかと思うと、朝から何も食べてないはずなのに何かが胃からこみ上げてきそうな感覚に襲われた。
遠くのウッドチェアに座った老人が手招きをしていることに気が付き、手で口と鼻を覆いながら老人のほうに歩みを進めた。
「話は聞いておるよ、君がサンタくんだね。この仕事は君にピタッリだよ」
老人はうれしそうに両手を伸ばしサタンの両手を掌で包んだ。
老人のしわしわで小さな手は自分を覆い隠すことは出来ていなかったけど、重なった部分から暖かい体温を感じ、サタンは思わず表情筋を緩ませた。
「さぁ、サンタくん。今はとぉっても忙しい。今すぐにでも仕事にとりかっかってほしいがまずは着替えからすませんとなぁ。おい、リズ。」
老人の呼びかけに反応して、どこからか一人の少女が現れた。この酒場には似つかわしくない美しい衣をまとい、細い糸のような髪を耳もとで束ね腰まで垂らしていた。
「お久しぶりです。さぁ、サタンさんお着替えを済ませちゃいましょう」
リズはそう言うと、サタンの手首を手にとり別の部屋へと連れていく。一歩進み体が揺れるたびに髪は一本一本が生きているかのように踊り、照明を反射させ何色にも輝いた。実はというと最初に見た時にも夕日のような色かと思ったが、瞬きをし目を開いたころには金色に変わっていたため断定することができなかった。
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