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『そう言えば、最近どう? 誰かに変なちょっかいとか出されてない?』
ある日のメールに、私は目を丸くする。
こういうのを虫の知らせとでもいうのだろうか。
誰に隠す必要もないのに、こみ上げる笑いをかみ殺しながら返信する。
『悪い事はできないものだね。ちょうど今日誘われたところ』
『え、誰に?』
すぐに返信が来た。
クイックレスポンスに、ちらりと時計を確認してみれば、二十二時を過ぎたところ。
現地は朝の七時だ。
潤はどんな部屋で、どんな格好で、どんな朝を迎えているのだろう。
『営業の山田くん』
『二人で?』
『うん。なんかね、話があるんだって。何だろう』
少し意味深長に書いたのはもちろんわざとだ。
それまでリズミカルだった新着メールを知らせるアラーム音が止む。
(怒ったのかな?)
しばらく待っていたが、メーラーはうんともすんとも言わない。
私はパソコンの前から離れ、着替えることにした。
時計とピアスを外したところで、その返信は届いた。
『なんだかんだ言っても、僕は地球の裏側にいる人間だから』
メールは真意を隠すのが得意だ。
『そうだね』
私もまた、真意を隠して、短く送る。
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