光と影

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光と影

俺は正直、琴音との幼馴染という関係が嫌だった。 「おい!りんとことねはけっこんすんだろー!」 「ふーふだふーふ!あははは!こどもはなんにんうむんだことねー!」 「やめてよぉ・・・りんりんはともだちだよー・・・うっ・・・うっ・・・」 幼い記憶、生まれた日も育ちも両親同士の関係でほとんどが一緒だった 俺達はいつもこうやって友達やクラスメイトからかわれていた。 琴音の泣き顔も、辛そうな顔もあの頃の俺には見慣れたもので、 何か言われるとすぐに泣くだけで何も変えようとしないあいつが嫌いだった。 そんな俺達の関係が変わったのはあいつが引っ越すだいぶ前だからえーと・・・ 10年以上も前となるであろう小学校での教室での出来事以来だ・・・。 当時、俺達は同じクラスで席も隣どうしだった。 これに関してだけ言えばたまたま席替えで隣になってしまっただけなのだが、 それがあってか、俺達のからかわれ具合も悪化の一途を辿っていた。 「やっぱりふうふはとなりどうしになるんだなー!」 「りんとことねはやくけっこんしろよけっこん!」 「ふーふ!ふーふ!」 いつもなら、こんなくだらないやり取りなど軽くスルーして終わるのに、 この日は何故か無性にイライラしていて俺はバンッ!と机を激しく叩いて 怒声を上げていた。 「いいかげんにしろ!ことねなんてぼくはだいっきらいだよ!!!」 あの時の琴音の顔は多分一生忘れないと思う。 ハッと我に返りその瞬間に琴音の顔を見ると、 泣くわけでもなく、じっと俯いてとても傷ついたような顔をしていた。 不意に出たひと言、本心でも何でもない感情任せに出た言葉を あの頃の俺には撤回する力もなく、俺達はそうして少しずつ距離を置くようになった。 からかわれることも少なくなり、互いに友達も増え事態は好転し始めた・・・筈なのに 俺の心には未だに大きなとげが刺さったままずっと残っている。 そしてあいつはそのまま何も告げずに遠くへ引っ越していってしまった。 もう会うことはないと分かっていても、正直会うことが少し怖い。 ひどく傷つけてしまった琴音の心を俺は今更修復することは出来ないから。 「ワンワン!!」 愛犬の声でふと気が付くと、 俺は大きな丘のあるアスレチック公園の前に立っていた・・・。
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