中編 『星空の下』

2/6
前へ
/18ページ
次へ
「梓、今日はありがとうね、だいぶスッキリした」 「ううん、そろそろ彼氏さん、許してあげれば」 「そうね、そろそろ許してあげようかな、じゃあまたね」 「バイバイ」 社会人ともなるとお酒がないとやってられない時がある。 その度に私と由利は酒を飲みながら愚痴り会を開くのだ。 「でもうらやましいな、彼氏」 2年前、彼氏と別れてからは彼氏はいない。 同期のほとんどは寿退社か、転職した。 もし由利が結婚して、退職したら。 「私だけ余り者かー」 この上なく辛いことはない。 28で新しく彼氏を作るとなると先は長い。 ため息しか出てこなかった。 星空を見上げていたので、人に気付かず、ぶつかってしまった。 「す、すいません」 「あ、いえ、こちらこそ・・・」 ぶつかった男性はいきなり泣きはじめた。 「ちょ、え?!そんなに痛かったですか?!! 本当にすいません」 「いや、違うんです、本当にすい・・・」 また泣きはじめた。 まるで私が泣かしているようだ。 人の視線が耐えられなくて、「ちょっと来て下さい」と手を引き、すぐ近くのベンチに座らせた。 (なんで私がこんな目に・・・) 「あのこれ、ハンカチ使って下さい」 「あ、りがと」 このあとどーすればいいか分からず、男性が泣き止むのを待っていた。 男が人前で泣きはじめるほど辛いことがあったのだろう。 彼女にフラれたか、親しい方がお亡くなりになられたとか。 そう思うと自分と同じ気持ちなんだって思い、放って置けなくなった。 「あの、すいません、いきなり」 「いやそんな、もしよろしければお話伺っても」 やっと泣き止んだらしい男性はポツポツと話してくれた。 「出ていけって、顔も見たくもないって。 行く当てもなく、言われたことがショックで」 「あー、彼女さんですか」 「いえ、彼女ではなくて」 「ではご両親ですか?」 「弟です」 「あー、弟ですか、って弟?!」 「はい」 この人は弟に出ていけって言われて、家を出たのか、しかも泣いている原因も弟? ブラコンってこーいう者なの?! それとも禁断の恋をしている兄弟とかなにかなのかな。 それなら有り得る、のか? 「あの、多分弟さんも心配しているので家に帰ったほうがいいんじゃないですか?」 「でも出ていけって」 「今頃後悔していると思いますよ、だから早めに帰ったほうが」 「・・・わかりました、でも帰り道が」 「はい?」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加