01 - 始まりの日

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 ――あの日、『自分』は。  ――心の言葉を告げるため、皮を被った。  早朝の部室を開けると同時、彼と眼があう。  驚く彼に、少し怯えると。 「おはよう、アキ」 「お、おはよう……」  呼びかけられた声に、ぎこちなく応える。  ――高く、甘くなった声にも、彼は疑問を返さない。 「ん? どうした」  柔らかな笑みで、私に微笑みかける彼。  彼は、ユキオ。いわゆる、幼なじみだ。 「ううん。なんでもないよ」  合わせるように微笑み返して、準備を始めた彼を見つめる。 「今日も、早いね」  堅実な彼の存在は、部にとって重要な位置。 「誰よりも早いアキの方が、立派じゃないか」 「そんなこと……」 「ありがたいよ」  練習用の服に着替え、彼は軽くストレッチをする。 「……でも、珍しいな。その、二人きりってのも」 「そう、だね」 「なにか……用でも、あるのか?」  ぎこちない言葉で、彼は私に問いかけてくる。  ――前だったら、二人きりでも、そんな素振りはしなかった。 「うん。伝えたいことが、あるの」  だから、私は……そんな素振りをしてくれる彼へ。  『私』の姿で、想いを伝える。 「私……ユキオのこと、好きなの。だから、二人になりたくて、早く来たんだよ」 「――っ」  私の言葉に、眉、髪、頬、顎……ユキオはいろいろな部分を手で探って。  最後、自分の顔を、全部覆う。 「……やばい。やばいって」 「やばい、って……どういう、こと?」  ユキオの言葉に、背筋がゾッと震えたけれど。  彼の顔から、ゆっくりと外された手。  そこから見えたのは――ふやけたような、赤い顔。 「やばいでしょ。……今日、にやけない、自信がない」 「えっ?」 「見、見ないでくれよ? 絶対、だらしない。自信がある、いや、本当に……!」 「それって、あの」 「ああ、ごめん」  一言謝ってから、ユキオは咳払い。  そして私に顔を向け、しっかりとした声で、答えた。
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